2017年10月7日土曜日

又吉直樹『火花』

 お笑い芸人が芥川賞を受賞したということで話題になった本作。話題になり過ぎて、発売当時は手を出したらちょっとミーハーだなと思って敬遠していたら、とうとう読まずに現在に至る。なので今回よいきっかけになったなと思います。
 芥川賞よりも直木賞のほうが読みやすいし、芥川賞は読んでも難しく、そもそも敷居が高い印象があるので、最近はずっと読んでいませんでした。
 正直言うと、『火花』は全体を通してストーリーについていくのが精いっぱいで、楽しむという段階まで行けなかった気がする。最後のエピソードは少し怖かったが、神谷があまりにも純粋に「おもしろい」を追求していたことが悲しかった。「もう何年も徳永以外の人に面白いって言われてないねん」って言葉が、本当につらかった。

 芸人として食えるようになれる人は本当に一握りで、スパークルみたいに、ひっそりと解散したコンビがそれはもうたくさんいるんだろう。でも、ごくわずかでも漫才師として、人を笑わせられたこと、誰かの心に残ったということは、彼らがお笑いをやった意味はちゃんとあったと思う。物語全体としては、ちょっとモヤモヤして終わったし、回収がないところもあったけど、よくわからないなりに楽しめました。

2017年9月2日土曜日

奥田英朗『イン・ザ・プール』

  学生時代に読んだ『イン・ザ・プール』、社会人になって改めて読むと、またちょっと違った視点から見えたような気がします。だらだら気軽に読めて、それぞれ内容が突飛で、よい気分転換になりました。
  小説を読んでいて、私のかわりに伊良部がはちゃめちゃなことを言ったり行動したりして、たまってたストレス(余りないのですが)を発散してくれたような気がしました。

2017年8月4日金曜日

梶山三郎『トヨトミの野望』

 そうか豊臣秀吉の話なのか…歴史小説苦手なんだよな…とタイトルだけ読んで思っていたら全然違った。某トヨタ自動車の話でびっくりした。読んでみて「こんなこと書いていいのか?!」とまたびっくり。『トヨトミの野望』はほとんどメディアとかでも聞いたことがなかったけれども、何かの力で阻止されているのかなと、読後は勘ぐってしまった。
 内容としては、今のトヨタ自動車の礎を築いた奥田氏の手法に対する批判や、創業家に対する批判など、非常にリアルに描かれているのだろうなと。今のトヨタがあるのは間違いなく奥田氏の手腕によるところが大きいが、時代ともに必要な経営者のスキルは変わるのだと実感しました。

 「登場する組織や人物はすべてフィクションであり、実在の組織や人物とは関係がありません」と言いつつ、固有名詞、一字違いで酷似してるし、トヨタ自動車の発展とリーマンショック後の苦戦。赤字、アメリカでの事故とリコール。2030年ガソリン車ゼロ宣言などの史実とかけ合わせ、トヨタファミリーと社内抗争、人事などの赤裸々な曝露。正直、そういう話題には疎いし、最初は読むのが辛かったけれども、だんだん武田氏の男気にひかれて読み切りました。

2017年7月7日金曜日

武者小路実篤『友情』

 恋が盲目というのは、相手を自分の都合のいいように見過ぎることを意味するんだなと。自分の理想と重ねて相手を見て、そこからずれているとすぐに怒る本当に人間というのは身勝手なものだ…と『友情』を読んだ感想として、まず自分の心に刻んでおきました。
 人を好きになる純粋な気持ちかもしれないけど、杉子を美化しすぎる野島が気持ち悪かった。それに比べて大宮は格好いい。親友に対するこれでもかという誠意。そりゃあ、私も迷わず大宮を選ぶ。ただ、杉子もしたたかというか、最初から純粋には見えなかった。一番怖い。これが女だと思う。
 一方で、失恋話と知っていながら、やはり野島のことを応援したくなる。友情と恋愛は切っても切れない関係なのは昔も今も変わらないんだなと改めて思った。これからの野島に幸あれ!と感じました。

 また、当時の青年たちが持っていた日本を背負って立つという意志や、文学や芸術に対する純粋な向上心、また、表現者としての誇りや決意というものも感じました。特に、「仕事の上で決闘しよう」という言葉には、ミッション(使命)を持ち、認め合った仲だから言えることかもしれないと思いました。

2017年6月2日金曜日

ローデンバック『死都ブルージュ』

 知的で多少なりとも財産のある男が他愛もない女性に恋心をもち、挙句の果て彼女に振り回され、破滅の階段を下りていくというお話。それはそれは、「しっかりしろ、目を覚ませユーグ!!」とやきもきしながら読みました。
 読みにくい文章だったのもあるかもしれないけれども、ブルージュの街の描写、宗教、妻の遺品、そして文章でよく出てくる「!」がすごくアンバランスで、何かすごく無機質で、生命感のなさをすごく感じた。この違和感が『都市ブルージュ』が今も読み続けられている理由なのだろうなと思いました。

 ちなみに『死の都』というオペラの原作だそうで、早速YouTubeで聴きました。いやいや、そんなグロッケン使うほどさわやかじゃないような…と思いましたが、まあオペラにするにはこれぐらいやらないと見せられないよなと納得。

2017年5月5日金曜日

アンディ・ウィアー『火星の人』

 『火星の人』というタイトルを見た瞬間、SFなんだな、変な宇宙人でも出てきて戦うのかなと勝手に想像して正直余り期待していませんでしたが、読んでみたらぐいぐい話に引き込まれた。上下巻があっという間に読み終わりました。
 読み進めて感じたのは、実際に起こっても仕方がないというリアルな出来事だけであり、文字どおりのサイエンスの上にある事件だけで、タコっぽい火星人とか登場しないのは当然のこと、そういう空想の世界の産物のようなものが一切ないところが、違和感をまったく持たずに脳内で想像しながら読めました。さらに、神が舞い降りて奇跡が起こって…という劇的な解決もない。淡々と工夫が続き、全編がどこまで知恵を絞り出せるかということの連続。最後のクライマックスまで、とにかく読み応えのある本でした。
 ワトニーのような、どんな苦境に直面しても、地球から遠く離れていても、ユーモアと希望を捨てない姿勢は人間の一番素晴らしい部分だなあと心から感動しました。

 SFは今まで余り読んだことがありませんでしたが、結構おもしろいんですね。

2017年3月31日金曜日

有川浩『レインツリーの国』

 先月に続き、障害をテーマにしたお話。
 『レインツリーの国』を読んで、何も知らない健聴者が聴覚障害の方に対して、自分ではよかれと思って言うことやすること、もちろん本当によいものもあるかもしれませんが、逆に重荷だったり傷ついたり内心はしてるんだな、と複雑な気持ちで読みました。
 伸のように、健聴者には内心まではわからず「どうすれば、どう言えばいいのか!?」と相手が大切な人であればあるほど、悩むし難しい感情だと思います。本編にも出てくるように、同じ聴覚障害の人たちの中でも違いがあって、障害者の方同士でもわかり合えない場合もあるのなら、なおさらだと思います。

 しかし基本はラブストーリーだし、障害のある方に肩入れした作品ではなく、人を思いやる気持ちにあふれた2人を主人公に、それぞれを対等な視点から描いているように読めて、とても心が温かくなりました。